大判例

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新潟地方裁判所 昭和58年(わ)351号 判決

本店の所在地

新潟市中権寺二八〇〇番

法人の名称

株式会社丸繁建設

代表者の住居

新潟市五十嵐二の町八四三二番地

代表者の氏名

古俣和行

本籍

新潟市五十嵐二の町八六八五番地丑

住居

同市同町八四三二番地

無職(元

株式会社丸繁建設代表取締役)

古俣繁三

大正一五年一月一四日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺公進出席のうえ審理し、つぎのとおり判決する。

主文

被告人株式会社丸繁建設を罰金二、〇〇〇万円に、被告人古俣繁三を懲役一年四月に処する。

被告人古俣繁三に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社丸繁建設(以下「被告会社」という。)は、新潟市中権寺二八〇〇番(昭和五七年五月一日までは同市五十嵐二の町八六〇二番地六)に本店を置き、埋立工事、土砂販売業を営むもの、被告人古俣繁三(以下「被告人」という。)は、昭和五七年一月三一日まで被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人古俣繁三は、被告会社の業務に関し、その法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空外注加工費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五四年一〇月一日から昭和五五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が九、六九七万一、三二〇円であったにもかかわらず、同年一一月二九日、同市営所通二番町六九二番地の五所在の所轄新潟税務署において、同税務署長に対し、その所得額が二、〇五三万九、二九五円でこれに対する法人税額が七一三万七、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、七七一万二〇〇円と右申告税額との差額三、〇五七万二、八〇〇円を免れ

第二  昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億二、九九六万一、一八二円であったにもかかわらず、同年一一月三〇日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、八八〇万一、三一〇円でこれに対する法人税額が一、〇六〇万二、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五、三〇九万一〇〇円と右申告税額との差額四、二四八万七、二〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)(注)例えば昭和五八年一月一日付けは、58・1・1と示すことにする。

判示事実全部について

一、被告人古俣繁三及び被告会社代表者古俣和行の当公判廷における各供述

一、被告人古俣繁三の検察官(一一通)及び大蔵事務官(六通)に対する各供述調書

一、被告人古俣繁三の大蔵事務官に対する答申書三通

一、荒川義衛、土田睦美(二通)、美濃ハツミ(二通、58・7・16は抄本)、品田隆治(五通、58・10・1は抄本)、景山嘉数(三通、58・10・4は謄本、58・7・12及び58・8・18は各抄本)、神田一男(二通)、斎藤恵一、加藤又司、鍵富建三(二通)、藤田修平、保苅美彰、平原平蔵、倉島百合子、岡本直子、野崎哲夫、小川忠右、関川修二、荒木幸男、古俣トヨイ(三通)、近藤泰夫(五通、58・10・2は抄本)、岩本フユ(二通)、中川清(抄本)、川崎兵吉(三通)、斎藤政一(二通)、田中忠造、小黒哲昭の検察官に対する各供述調書

一、細野寿喜栄(二通)、堀内公、田辺則子、神田欽次、野崎哲夫、若杉武(二通)、近藤泰夫(四通)、岩谷フユ、若杉初美、加藤幸枝、古俣トヨイ、清野康麿(三通)、山本英一、桑原正男、若杉伝吉(三通)、若杉宏(二通)、小林トシミ、渡辺静雄、中川光一、新田見一郎(二通、57・6・12は抄本)、斎藤政一(二通)、田中忠造、桐生静夫、小島勇、土田睦美、玉木政雄(抄本)、星誠(抄本)、石井昭三(二通、各抄本)の大蔵事務官に対する各供述調書

一、新潟税務署長(八通)、新潟財務事務所長、新潟市長及び新潟信用金庫青山支店長各作成の各証明書

一、大蔵事務官作成の調査書(三二通、但し、58・5・25は抄本)、脱税額計算書(二通)、現金・有価証券他(等)確認書(三通)及び調査関係書類(一〇通、それぞれ「新潟信用組合本店」、「五十嵐浜漁業協同組合」、「大光相互銀行平和台支店」、「新潟信用金庫青山支店」、「協和銀行新潟支店」、「第四銀行本店」、「第四銀行内野支店」、「第四銀行寺尾支店」、「興栄信用組合本店」、「大和証券株式会社新潟支店」に関するもの)

一、多賀重雄(三通)、株式会社本間組経理部会計課長(二通)、本間興業株式会社、新潟県信用組合本店営業部副部長、株式会社第四銀行古町支店長、同銀行内野支店長、同銀行曽根支店長、新潟いすゞ自動車株式会社新潟営業所次長、同会社経理担当長谷川憲市、大陽信用組合豊栄支店長、キヤタピラー三菱株式会社新潟支店長、巻信用組合西川支店長、同組合松野尾支店長、新潟信用金庫白根支店長(二通)、同金庫青山支店長(五通)、関川修二、昭和燃商株式会社(二通)、第一石油販売株式会社、渡部久司、渡辺佐市、中野弘規、大関勢喜伊智、石黒真苗、稲葉サク、金子次郎、稲葉幸夫、稲葉タケ、安沢運平、北畠勝一、北畠五作、伊藤三郎、伊藤キヨ、五伝木庄三郎、五伝木庄八、稲葉稲策、大山トセ、大山藤市、朝妻九八、新潟県労働者総合生活協同組合理事長各作成の各答申書

一、検察官(二通)及び検察事務官(一二通)各作成の各捜査報告書

一、検察事務官作成の電話通信書

一、登記官作成の登記簿謄本二通

(法令の適用)

罰条 判示各所為

第一  被告人古俣繁三について昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法(以下「旧法人税法」という。)一五九条一項、刑法六条、一〇条

被告会社について旧法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

第二  被告人古俣繁三について法人税法一五九条一項、被告会社について同法一六四条一項、一五九条一項、二項

刑種の選択

被告人古俣繁三に対する判示第一及び第二の各罪について所定刑中いずれも懲役刑選択

併合罪の処理

刑法四五条前段、被告人古俣繁三に対する懲役刑について同法四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に加重)被告会社に対する罰金刑について同法四八条二項

懲役刑の執行猶予

被告人古俣繁三について同法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告会社の代表取締役であった被告人古俣繁三が二事業年度にわたり、合計一億七、七五九万円余の所得を秘匿し、合計七、三〇六万円の法人税を免れたという事案である。右各金額はいずれも極めて高額であって、その所得秘匿率は約七八パーセント、税ほ脱率は約八〇パーセントに及んでいる。犯行の動機形成上被告人が個人営業当時に蓄積した資金のほとんどを将来の山砂採取権取得のための準備費用として使い果たしてしまい被告会社の事業逐行上の諸経費を特に捻出する必要に迫られていたという経緯がうかがわれるものの、到底本件犯行を正当化しうるものではなく、被告会社が被告人及びその一族のいわゆる同族企業であってみれば、本件脱税はつまるところ私的利益の増大に直結しているとみるのが相当であって動機において酌量の余地はない。犯行の態様をみるのに、本件ほ脱の主たる手段は、水増し、あるいは架空の外注加工費の計上であるが、その他売上除外をするなどの不正な手段をも弄しているうえ、これによって得た多額の資金を簿外預金にして秘匿してほ脱した上これを担保に金銭の借入れをするというもので誠に巧妙かつ悪質というほかない。被告人は、本件各犯行の発覚を免れるため、その不実の取引に利用した相手方と通謀して虚偽の証憑書類を作成したり、被告会社の経理担当者に指示して会計帳簿類に不実の記帳をさせるなどの罪証隠滅工作をしているほか、本件以前にも税務調査を受けて公正な税務処理を指導されたいきさつがあるのにあえて本件各犯行に及んでいることを併せ考えると、被告人の納税意識の希簿さは顕著であって、その刑事責任は重大であるといわなければならない。

しかしながら、他方、被告人は、すでに所定の本税については全額を一時に納付し、延滞税については、被告人及び家族名義の各不動産に抵当権を設定するなどの手立てを講じて納税の猶予申請手続をすませ、完納の見込みも確実であること、被告人はすでに被告会社の役員を退任し、同会社内部の経理体制も以前よりは整ってきており、被告人及び被告会社代表者ともども再犯のないことを誓っていること、被告人に前科がないこと、その他被告人の年齢、健康状態及び他の同種事犯における量刑例などに照らすと、被告人に対しては、今回に限りその刑の執行を猶予し、被告会社については主文掲記程度の罰金を科するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中康郎)

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